格差社会と階級社会

白波瀬佐和子『生き方の不平等』

最近、このブログの更新が滞っていた。読書していないわけではないのだが、紹介しても読みたいと思う人がいないと思われる古い本や、必要な部分だけ読めばすむ本、あるいは紹介する気の起こらないような本ばかりだった。久しぶりに、新刊で紹介するにふさわ…

朝日新聞「ゼロ年代の50冊」

なぜか、拙著『「格差」の戦後史』が選ばれました。田中秀臣さん、三浦展さんなど、ネット界で疑問の声が上がるのも当然です。好意的に解釈すれば、格差関係の本が何冊か候補に挙がったものの、「代表作ではない」「結論の一部がすでに否定されている」「受…

西澤晃彦『貧者の領域──誰が排除されているのか』

著者は1995年、『隠蔽された外部──都市下層のエスノグラフィー』で鮮烈なデビューを飾った。その内向的でありながら輝きを放つ文体は、都市下層というテーマに実にふさわしく、当時まだ著書のなかった私は、この年下の著者に対して、秘かに嫉妬を感じていた…

近藤克則『「健康格差社会」を生き抜く』

著者は社会疫学の専門家で、「健康格差社会」という言葉の生みの親。これまでの著作は、良くも悪しくも地味な学術書スタイルだったが、今回は完全な啓蒙書で、しかもスタイルが堂に入っている。歯切れ良く、たたみかけるように事実を提示し、明確に結論する…

橋本健二編著『家族と格差の戦後史』

新刊です。私にとっては、初の「編著」となります。編者が実際にはほとんど貢献していなさそうな本をよく見かけますが、これは文字通りの編著で、全7章中、私が3つの章を書いています。他の執筆者は、佐藤香さん、元治恵子さん、小暮修三さん、仁平典宏さん…

橋本健二『「格差」の戦後史』

朝日新聞に書評が出ました。好意的な書評です。数日後には、ネットでも公開されるでしょう。とりあえずは、画質のよくない画像データですが、雰囲気だけご紹介します。「格差」の戦後史--階級社会 日本の履歴書 (河出ブックス)作者: 橋本健二出版社/メーカー…

鈴木英生『新左翼とロスジェネ』

著者は1975年生まれの新聞記者だが、どういうわけか新左翼運動に興味と共感を抱き、文献資料を読みあさってまとめたのが本書である。1960年代から70年代初頭の新左翼運動や全共闘運動を経験していないという点では、私も同じだ。とはいえ、私の学生時代には…

太郎丸博『若年非正規雇用の社会学』

タイトルだけみると、最近注目のテーマを扱ったタイムリーな企画、とみえる。実際、そういう側面もあるのだが、ちょっと違う。実はこの本、社会階層論の教科書でもある。中心テーマとして若年非正規雇用を取り上げながら、社会階層の概念や理論、社会階層分…

新著発売 『「格差」の戦後史』

本日、発売されました。河出書房新社の新しい選書シリーズ、「河出ブックス」の第1弾、6冊のうちの一冊です。229ページで1260円はお買い得?ちなみにAmazonは現在、全品送料無料キャンペーン中なので、この値段でも送料無料になります。「格差」の戦後史--階…

ウィルキンソン『格差社会の衝撃』

経済的な格差が人々の健康に悪影響を及ぼすことについては、すでにカワチ&ケネディが『不平等が健康を損なう』(日本評論社)で明らかにしており、国内でも近藤克則や川上憲人らの研究がある。しかし本書は、あらゆる意味で決定版といっていい。自分の行って…

橋本健二『「格差」の戦後史』

新著です。1945年以降の日本の経済格差の動向を、官庁統計や調査データから明らかにするとともに、さまざまな事件や風俗、小説や映画、マンガなどを取り上げて、戦後史のなかの「格差」を時系列的に描きました。河出書房新社の新しい選書「河出ブックス」の…

総選挙終わる。

衆議院選挙で、政権交代が決まりました。これは今日の毎日新聞朝刊の記事です。ネットでも公開されています。 http://mainichi.jp/select/seiji/09shuinsen/news/20090831ddm012010099000c.html

橋本健二『新しい階級社会新しい階級闘争』

私の2年前の著書だが、ネット上に素晴らしいレビューが出た。大阪産業労働資料館エル・ライブラリーのサイトである。山口さん、ありがとうございます。 タイトルには「階級社会」「階級闘争」という言葉がならんでいますが、現代日本の状況を、伝統的な階級…

伊藤元重『リーディングス 格差を考える』

伊藤元重が編集したリーディングスというから、かなり専門的な論文を集めたものかと思ったら、大部分が『エコノミスト』『日本経済新聞』『論座』など、一般向けのメディアに書かれたもの。入門書ではないから、それぞれの著者の主張が前面には出るものの、…

岩田正美『社会的排除』

岩田正美は、貧困研究に関する第一人者であるとともに、ジャーナリズムに通じる抜群の現実感覚があり、しかも文章がうまいという、私が尊敬する研究者の一人である。本書はその最新作で、研究の最新成果を社会的排除論と結びつけた意欲作。 書き出しがいい。…

斉藤貴男『強いられる死』

自殺の名所とされる福井県の東尋坊に、自殺を水際で食い止める活動をしているNPOがある。2008年暮れからの3ヶ月間で、15人を自殺の淵から救い出した。そのうち7人までが、派遣切りの犠牲者だった。そして他の8人は、多重債務者、勤め先でパワハラにあった人…

直井優・藤田英典編『講座社会学13 階層』

いままで読んでなかったのかと言われそうだが、ようやく読了。大ベテランから中堅ホープまでを揃えた陣容だが、これは果たして『講座社会学』なのかというと疑問。総論的な章があと一つか二つ必要だったのではないかという気もするが、論文集と考えればまあ…

白波瀬佐和子『日本の不平等を考える』

著者は、少子高齢化・家族の多様化というトレンドに注目しながら、格差と不平等について論じてきた社会学者。本書はこれまでの研究の集大成ともいうべきものだろう。基本のデータは、日本については国民生活基礎調査、台湾および欧米諸国についてはルクセン…

岩井浩・福島利夫・菊地進・藤江昌嗣編著『格差社会の統計分析』

統計学という言葉には、大別して2つの意味がある。1つは、多数派の研究者が理解する意味での統計学で、理論統計学、とくに推測統計学のこと。つまり、集められたデータから各種の統計量を算出し、ここから母集団の性質を推測するための数学的方法である。も…

鎌田慧『いま、逆攻のとき』

派遣労働、外国人労働、貧困などに関して、この著者が最近書いた文章を再構成してまとめられた前半部と、川田文子、湯浅誠との対談を収めた後半部からなる。この人の文章は、ふだんから『週刊金曜日』で読んでいるので、内容的には見慣れたものが多いが、い…

吉川徹『学歴分断社会』

出版間もなく著者から送ってもらっていたのだが、ようやく読了。著者の主張は、ある意味では単純明快で、「格差社会の"主成分"は学歴だ」というもの。つまり、日本では職業に関連して定義される階級・階層よりも、大卒と高卒に二分された学歴の方が重要で、…

原清治・山内乾史『「使い捨てられる若者たち」は格差社会の象徴か』

ある日の授業のあと、学生が私のところへやってきた。 「先生って、すごいんですね。」 「は?」(なんだ、いまごろ分かったのか) 「この本で、先生のこと、すごくほめてありましたよ。」 と、学生が差し出したのが、この本。二人の著者は教育社会学が専門と…

塩見鮮一郎『貧民の帝都』

著者は、被差別民の歴史に関する著作で知られ、なかでも江戸時代の非人についての著作が多いが、本書の対象は近代で、幕末から敗戦後までを扱っている。 明治維新によって大名と家臣たちは地方に帰ったが、これによって江戸と地方の性格は大きく変わる。地方…

不破哲三『マルクスは生きている』

少し話題になっている本である。読んでみると、「共産党も少し変わったな」と思わせる部分と、「やっぱり共産党は変わらないな」という部分がある。 変わったなと思うのは、まず恐慌に関する過少消費説と過剰生産説を組み合わせようとしているところ。しかも…

いのうえせつこ『地震は貧困に襲いかかる』

いまから考えると、バブル景気とその余波に、最終的な終止符を打ったのは、阪神淡路大震災だったのではないかという気もする。被害の大きさだけではない。日本に深刻な貧困と格差があることを、世に知らしめたからである。 被害の大きかったのは、低地にある…

見田宗介『まなざしの地獄』

見田宗介の「まなざしの地獄」は、私の世代の社会学者には忘れることのできない名論考である。連続射殺事件の永山則夫のライフヒストリーに題材をとり、現代日本における階級の意味について論じたもので、永山則夫に関する文献の中でもトップにあげておきた…

藤原新也『新版・東京漂流』(新潮社・1990年・621円)

必要があって、再々読。必読は、現実に起こった事件から題をとりつつ、この社会の随所にある階級的な侮蔑とルサンチマンを描き出し、これが通り魔事件を生み出すことを暗示した「偽作 深川通り魔殺人事件」という一文。今だからこそ、読まれなければならない…

五十嵐仁『労働再規制』

政府の労働政策が、微妙に方向転換している。これまでは規制緩和一本槍だったが、格差批判やワーキングプアが増えているという指摘などを受け、規制を若干厳しくする方向に向かっているようだ。 この方向転換を「労働再規制」と呼び、その転換は2006年に始ま…

洋泉社ムック編集部『アキバ通り魔事件をどう読むか!?』

8月28日発行だから、事件から3ヶ月経たないうちに刊行されたことになる。まあまあのスピードといっていいだろう。短いもので3ページ、長いものでも10ページほどの小文を25編ほど収めていて、執筆者は、赤木智弘、雨宮処凛、吉田司、小浜逸郎、三浦展、東浩紀…

布施哲也『官製ワーキングプア』

公務員といえば、「身分が安定していて給料が高い」と脊髄反射的に考える人は多い。これは、事実に反する。公務員の給与は、民間企業の平均値をもとに人事院勧告で決められているのだから、高いはずがない。 高い部分があるとしたら、それは運転手や作業員な…