格差社会と階級社会

スティグリッツ『世界に格差をバラ撒いたグローバリズムを正す』

ポール・クルーグマンがノーベル経済学賞を受賞した。私はもともと、ノーベル賞などというものは信用していない。受賞対象が、ノーベルとの遺言に基づいて「発見」に限定されているため、科学研究に歪みをもたらしたという批判がある。受賞者の誤った決定も…

東海林智『貧困の現場』

著者は毎日新聞社会部の記者だが、これは連載記事などをまとめたものではなく、書き下ろし。ちなみに著者の名前は「しょうじ」ではなく「とうかいりん」だとのこと。 この著者、なかなか熱血漢で、情にもろい。だから、生活保護申請の窓口で、役所の係員が申…

魚住昭『野中広務 差別と権力』

自民党総裁選挙で、麻生太郎が当選確実と伝えられる。短命内閣に終わることは間違いないが、少なくとも一時期は、麻生が総理大臣になるわけである。しかし麻生はいろいろ爆弾を抱えている。自爆寸前といってもいい。その爆弾のひとつが、差別発言問題である…

ロバート・ライシュ『暴走する資本主義』

この本も、日本に帰ったらすぐに読みたいと思っていた本。ちなみに、『暴走する資本主義』という書名は、すでに使われている(本間重紀著・1998年)。アンドルー・グリン『狂奔する資本主義』(ダイヤモンド社・2007年)の訳者に聞いた話だが、原書名の"Capitali…

ポール・クルーグマン『格差はつくられた』

すでにあちこちに書評がでているから、だいたいの内容についてはご存じの方も多いだろう。パリ滞在中にネットで書評を読み、日本に帰ったらまっさきに読まなければと考えていた本のひとつである。 世界的に進行し、とくに米国と日本で顕著な格差拡大について…

後藤道夫・木下武男『なぜ富と貧困は広がるのか』

格差拡大と貧困の増大が社会問題になるなか、現代のマルクス系実践的左翼知識人の代表格ともいうべき二人による書き下ろし。マルクス主義を標榜してはいないが、実質的には若者に向けたマルクス主義の入門書である。「格差社会を変えるチカラをつけよう」と…

高橋英之『日米戦争はなぜ勃発したか』

「メシの問題から見た昭和史と現代日本」という副題がつく。その内容は、第1部の「戦争の原因は貧困、では貧困の原因は?」というタイトルに凝縮されている。 これまでの代表的見解は、国内の人口増による貧困を重視するものと、階級格差の拡大による貧困を…

デイズ・ジャパン 8月号/9月号

9月6日に日本に帰ってから、たまりにたまった数十冊の雑誌に目を通しているところ。今朝読んだのは、このDAYS JAPAN。相変わらずがんばっている雑誌である。どうして日本では、このような硬派のジャーリズムがメジャーにならないのか。実は、なりかけたこと…

幸徳秋水『社会主義神髄』

何をいまどき、という感もあるが、はじめて読了。 初版刊行が1903年ということもあり、理論的な水準からいえば、きわめて初歩的で、また天皇制と社会主義の両立を力説するなど、時代を感じさせる部分も多い。しかし、たいへん面白かった。個人の持つ技能につ…

小板橋二郎『ふるさとは貧民窟(スラム)なりき』

東京・板橋区の岩の坂にあったスラムで生まれ育った著者の回想録。これは、戦中・戦後のスラムを内部から記録した名著といっていい。 感動的なエピソードの数々をここで紹介するのは控えておいて、特徴を2点だけ記しておきたい。まず、スラムが朝鮮人差別と…

佐藤拓『1万円の世界地図』

著者は1959年生まれの科学ジャーナリストとのこと。本書は世界各国の間の広い意味での富の配分と格差に関する統計を紹介するもので、所得、物価、税金、健康、識字率、教育など、幅広い問題を扱っている。ふだんから新聞や雑誌を読む人なら、半分以上くらい…

門倉貴史『官製不況』

いま、いちばん速いペースで著書を量産している著者の一人といっていいだろう。エコノミストとはいっても、派遣労働者やセックス産業など、泥臭い問題にも関心をもつ幅広さがある。 本書も「官製不況」をキーワードに、日本企業のモラルハザード、ワーキング…

『セオリー2008 vol.2 高級住宅街の真実』

毎年、高級住宅地のランキングを作成しているムックの最新版。 東京と関西や名古屋は比較しようがないので関東だけを抜き出せば、1位田園調布、2位横浜山手、3位麻布といった具合。地域による経済格差の資料として使えないこともないのだが、データの制約が…

堤未果『ルポ 貧困大国アメリカ』

この本、だいぶ評判になっている。内容的には、以前取り上げた『アメリカ弱者革命』(海鳴社・2006年)の続編で、特に話題になった高校生に対する軍へのリクルート活動については、ほぼ同じようなことが書かれている。 今回新しく追加された内容で注目したいの…

湯浅誠『反貧困』

著者は『貧困襲来』という著書でも知られるが、反貧困運動の最前線に立ち続けている人物。私より10歳ほど年下だが、心から尊敬できる数少ない人物の1人である。 実践家であるだけではない。大学院の博士課程まで出た経歴を持ち、「貧困ビジネス」「5重の排除…