白波瀬佐和子『生き方の不平等』

 最近、このブログの更新が滞っていた。読書していないわけではないのだが、紹介しても読みたいと思う人がいないと思われる古い本や、必要な部分だけ読めばすむ本、あるいは紹介する気の起こらないような本ばかりだった。久しぶりに、新刊で紹介するにふさわしい本を読んだ。
 白波瀬さんは社会階層研究者で、オックスフォードで学位を取った俊英。といっても、研究スタイルは地道そのもので、世界各国のデータを丹念に分析し、知見を積み上げていくタイプ。文体も地味で、読んでいてわくわくするようなタイプとはほど遠い。本書は前著『日本の不平等を考える』の日本に関する部分を抜き出し、さらに官庁統計などによってマクロな社会的背景について補い、これを誕生から老後までというライフステージの順に配列したもの。ですます調の文体といい、一般読者にわかりやすくする工夫がされている。岩波新書編集部的文体、という点では橘木俊詔の『格差社会』と共通ということもできる。
 「お互いさまの社会に向けて」と題された終章の主張は、ロールズの名前を出さずにロールジアンの発想をこなれた形で呈示したものと思われるが、ある意味では控えめで、告発調とはほど遠い。これを訴求力に欠けるとみるか、懇切丁寧で説得力があるとみるか。しかし「格差より貧困」という最近の論調をはっきり否定したところは、わが意を得たりというところだ。
 なお前著と同様に、経済的に苦しいから子どもを産まないという傾向は認められないとした箇所(p.55)があるが、この結論は分析方法の選択ミスによるもので、私は間違いと考えている。これについては、『社会学評論』60巻3号に私が書いた書評を参照されたい。

生き方の不平等――お互いさまの社会に向けて (岩波新書)

生き方の不平等――お互いさまの社会に向けて (岩波新書)