直井優・藤田英典編『講座社会学13 階層』

 いままで読んでなかったのかと言われそうだが、ようやく読了。大ベテランから中堅ホープまでを揃えた陣容だが、これは果たして『講座社会学』なのかというと疑問。総論的な章があと一つか二つ必要だったのではないかという気もするが、論文集と考えればまあまあ読み応えがある。
 個人的に面白かった章をあげれば、まず「階級・階層意識の計量社会学」(吉川徹)。階層性が見出される社会意識の領域は全体に縮小し、いまや正統的文化活動と一部の購買行動に限定されるという。面白い指摘だが、職業の指標として威信スコアを使っているところが問題。社会意識の規定要因としては、職種より階級の方が重要であるはずだ。「社会移動の国際比較と趨勢」(石田浩)は、見慣れた内容だが、彼のある時期までの研究の集大成であり、基本文献として押さえておくべきものである。ヨーロッパ諸国と比較したときの、日本の社会移動の最大の特徴は、労働者階級の階級再生産率と世代間安定度が低いことだというが、これは労働者階級の範囲をどう考えるかという問題と関係しているはず。マルクス主義的な階級カテゴリーでの検証が必要だろう。
 さて、「高度流動化社会」(苅谷剛彦)の終わりの「付記」に、面白いことが書かれている(同様の付記は、石田浩の章にもある)。

 本稿は、当初編者から与えられたテーマ設定に従い、1998年7月に一度校了した原稿を、2007年6月に最小限の加筆修正を行なったものである。

 この『講座社会学』の刊行が始まったのは1998年だが、本書の刊行は2008年。実に、10年を経過している。たとえば2年後の出版を目指して2006年あたりに企画が始まったのだとしたら、本書の構成はまったく違うものになっていただろう。その意味で、不運な企画であった。なにしろ遅筆で有名な藤田氏が編者なのだから、執筆者にはご同情申し上げる他はない。出版を遅らせた藤田氏自身は、小泉改革の影響まで含めた最新動向を扱っており、ごく最近の研究をいろいろ引用(引用ばかりで、オリジナルな新しい分析は皆無に近いが)している。編者としての倫理が問われるところである。

講座社会学 13 階層

講座社会学 13 階層