伊藤元重『リーディングス 格差を考える』

 伊藤元重が編集したリーディングスというから、かなり専門的な論文を集めたものかと思ったら、大部分が『エコノミスト』『日本経済新聞』『論座』など、一般向けのメディアに書かれたもの。入門書ではないから、それぞれの著者の主張が前面には出るものの、その多くは平易に書かれていて、全体としては一種の概説書となっている。その意味で、私のような者からみると目新しいところは多くないのだが、いくつか学んだ点、注目した点がある。
 まず格差拡大をもたらした要因についての経済学的な研究の成果が、幅広く紹介されていること。われわれ社会学者やジャーナリストなどの門外漢は、グローバル化と技術革新によって格差が拡大した、などと簡単に書いたりしゃべったりしてしまいがちなのだが、それぞれの影響についての専門的な研究の成果を知ることができるのは大きな収穫である。これについては太田聰一論文と伊藤元重論文に詳しい。
 以前読んだことのある論文だが、ワーキングプアについての駒村康平論文は、貧困問題に関心のある人には必読文献。ワーキングプアの数や比率についてはいろいろな試算があるが、何をもってワーキングプアとみなすかというところがはっきりせず、ジャーナリズム受けする過大評価の数字が一人歩きする傾向がないではない。その点、駒村の試算は周到な手続きによるもので、参考になる。これによると、六五歳未満の世帯主が就業する貧困世帯は約一五〇万世帯で、これに該当する生活保護世帯は五・七万世帯だから、捕捉率は四%未満だという。
 ちなみに本書は、NIRAの企画によるもの。いい企画である。同じように、いろいろなトピックについてのリーディングスを出してくれれば助かるのだが。