岩田正美『社会的排除』

 岩田正美は、貧困研究に関する第一人者であるとともに、ジャーナリズムに通じる抜群の現実感覚があり、しかも文章がうまいという、私が尊敬する研究者の一人である。本書はその最新作で、研究の最新成果を社会的排除論と結びつけた意欲作。
 書き出しがいい。町の中心街を歩いていると、あちこちに「排除」がみられる。関係者以外立入禁止、市民以外利用禁止、公園の横になることのできない椅子など。ふだんは気付かない「排除」の存在を読者に実感させるという、見事な導入部である。
 内容は、期待を裏切らない。とかく抽象論と政策論に二極化しがちな社会的排除・包摂論を、学説史と最新の研究成果の両論から、平易かつ明晰に解説していく。そもそも社会的排除をつくり出したグローバリゼーションと、これによって利益を得ている勢力への批判が重要だという、社会的排除論に対する本質的な批判にも目配りがされている。とかく労働参加の促進に流れがちな、現実の「包摂」政策への批判も鋭い。優れた入門書というのは、こういう本のことである。

社会的排除―参加の欠如・不確かな帰属 (有斐閣Insight)

社会的排除―参加の欠如・不確かな帰属 (有斐閣Insight)