斉藤貴男『強いられる死』

 自殺の名所とされる福井県東尋坊に、自殺を水際で食い止める活動をしているNPOがある。2008年暮れからの3ヶ月間で、15人を自殺の淵から救い出した。そのうち7人までが、派遣切りの犠牲者だった。そして他の8人は、多重債務者、勤め先でパワハラにあった人、うつ病、同級生にいじめられた高校生など。ここから著者は、現代日本のさまざまな自殺の姿を、自殺を企てた本人や家族などへのインタビューを中心に、リアルに描き出していく。
 この著者は、「巨悪」に立ち向かうときに、ますます鋭さを増すようだ。だから、パワハラ長時間労働郵政民営化による労働強化などを扱った前半部が、とくに凄い。自殺した郵便局員の妻は「私は、主人は小泉に殺されたのだと思っています」という。この言葉を引き出すことができたのも、著者が怒りを共有しているからである。
 自殺者は年間3万人で、自殺率は先進国最高。その多くが、事実上の「殺人」であるということを、背筋が寒くなるほどに実感させてくれる。

強いられる死 自殺者三万人超の実相

強いられる死 自殺者三万人超の実相