ウィルキンソン『格差社会の衝撃』

 経済的な格差が人々の健康に悪影響を及ぼすことについては、すでにカワチ&ケネディが『不平等が健康を損なう』(日本評論社)で明らかにしており、国内でも近藤克則や川上憲人らの研究がある。しかし本書は、あらゆる意味で決定版といっていい。自分の行ってきた研究の成果だけでなく、この問題に関する世界中の文献を徹底的に渉猟し、知見を見事に体系化して提示している。
 著者はもともと経済史の研究者だったとのことで、経済学や経済史をはじめとする社会科学関係の文献も数多く引用される。トクヴィルやスミス、マルクスエンゲルスなどからの的確な引用は、著者の学識の高さを証明しており、自然科学系の文献にありがちな、無味乾燥な事実の羅列といったスタイルとはほど遠い。
 結論はすでに広く知られていると思うが、念のため繰り返すと、経済的格差が大きいことは、単に健康を害しやすい貧困者を増大させるからではなく、裕福な人々も含めて、社会成員全体の健康水準を低下させる。それは経済的格差が、人々の間にストレスを生み出し、連帯感を低下させ、さらには暴力や犯罪を増加させるからである。
 日本では、この分野の研究があまり進んでいない。これまでの研究でも、抑うつ傾向や主観的健康観が所得水準と関係していること、男性高齢者については死亡率も大きく異なることなどが明らかにされているものの、長期にわたる大規模なパネル調査のようなものが行われていないので、まだまだこれからという段階である。社会医学者と社会学者による大規模な共同研究が望まれる。

格差社会の衝撃―不健康な格差社会を健康にする法 (社会科学の冒険2)

格差社会の衝撃―不健康な格差社会を健康にする法 (社会科学の冒険2)

不平等が健康を損なう

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