岡田喜一郎『昭和歌謡映画館』
昔のB級映画ものを、もう一冊。本書は、エノケン、美空ひばり、石原裕次郎、小林旭などが主演し、主題歌を歌った映画を中心に、昭和20年代から40年代までの、さまざまな歌謡映画を紹介している。400ページを超えるボリュームで、このテーマに関しては、当面のところ決定版ということになるだろう。
著者は序文で、「芸術性が高いといわれる映画よりも、歌謡映画の方に、世相や大衆志向などが端的に表現されているような気がする」という。というのも、「そもそも歌謡曲はその時代に生きる大衆の心情を歌ってきた」からである。同感である。
「悲しき口笛」では、美空ひばりが戦災浮浪児同然の暮らしをしている。高度成長期になると、工場労働者などとして下層で生きる若者たちを主人公とする青春映画が、多数作られた。戦後史を論ずるときに、歌謡曲の歌詞を引用するのはよくある手だが、映画の場面を使ってもいいはずで、とくに歌謡映画は素材の宝庫といっていい。本書は、今日でもビデオなどで鑑賞できるものを中心に紹介したということで、ガイドブックとして大いに役に立つ。巻末には、戦前の歌謡映画も20本ほど紹介されている。
昭和歌謡映画館―ひばり、裕次郎とその時代 (中公新書ラクレ)
- 作者: 岡田喜一郎
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2009/07/01
- メディア: 新書
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