近藤克則『「健康格差社会」を生き抜く』

 著者は社会疫学の専門家で、「健康格差社会」という言葉の生みの親。これまでの著作は、良くも悪しくも地味な学術書スタイルだったが、今回は完全な啓蒙書で、しかもスタイルが堂に入っている。歯切れ良く、たたみかけるように事実を提示し、明確に結論する。これは、うれしい期待はずれ。
 理科系の人らしく、世界的な研究動向が広く紹介されていて、これによるとソーシャル・キャピタルと健康の関係に関する論文が、この10年間で3万6000本を越えているとのこと。論文のスタイルや長さが異なるとはいえ、社会科学における格差研究をはるかに超える量の論文が書かれているわけだ。門外漢は、こんな膨大な研究を渉猟するわけにいかないので、こういう本の出版は大歓迎である。
 タイトルには「自助努力によって格差を克服する」というニュアンスがあって、少々違和感がある。第7章がこのタイトル通りの内容だが、本書全体としては健康格差のマクロな構造を繰り返し強調しているだけに、この部分だけが一人歩きして、自己責任論に絡め取られるのが心配。もっとも、全体としては著者の毅然とした姿勢が明確で、ちゃんと読めばそんな誤解・曲解は生じないはず。必読書です。

「健康格差社会」を生き抜く (朝日新書)

「健康格差社会」を生き抜く (朝日新書)