五十嵐仁『労働再規制』

 政府の労働政策が、微妙に方向転換している。これまでは規制緩和一本槍だったが、格差批判やワーキングプアが増えているという指摘などを受け、規制を若干厳しくする方向に向かっているようだ。
 この方向転換を「労働再規制」と呼び、その転換は2006年に始まったと説くのが本書。
 問題は、果たして「再規制」というほどのものなのかという点である。たしかに、ホワイトカラー・エグゼンプションは国会提出されずに終わったし、派遣労働者の直接雇用義務の撤廃など、さらなる規制緩和はすすんでいない。しかし、これらは規制緩和が進行しなくなったということであって、再規制がすすんだというわけではない。
 日雇派遣が禁止されるというが、これは派遣会社との雇用関係についての話であって、実際には派遣労働者はあちこちの職場へたらい回しされる。その上、「期間を定めないで雇用する派遣労働者」なる類型が導入されて、直接雇用義務が骨抜きにされようとしている。最低賃金の引き上げは喜ばしいことだが、なんとか米国並みになるかといったレベルで、ヨーロッパの水準にはほど遠い。
 再規制への反転をさらに強めようという著者の呼びかけはけっこうだが、自民党の厚生労働族と官僚たちを過大評価してはいけない。ただし、規制緩和の始まりから最近までの流れがよくまとめられているので、たいへん役に立つ本である。

労働再規制―反転の構図を読みとく (ちくま新書)

労働再規制―反転の構図を読みとく (ちくま新書)