西澤晃彦『貧者の領域──誰が排除されているのか』

 著者は1995年、『隠蔽された外部──都市下層のエスノグラフィー』で鮮烈なデビューを飾った。その内向的でありながら輝きを放つ文体は、都市下層というテーマに実にふさわしく、当時まだ著書のなかった私は、この年下の著者に対して、秘かに嫉妬を感じていた。その筆致から見て、第2弾、第3弾は確実とも思われたのだが、意外にもその後、単著がなかった。これが15年ぶりの単著ということになる。
 私が注目したのは、次の2点である。
 まず第1に、長年続けてきたホームレス調査から得られた知見を、マクロ的な面からとらえ返していること。ホームレスたちはけっして、大都市を漂泊する流浪の民なのではない。ホームレスへと移行しやすい条件下で下層労働者を飯場・寮・木賃アパートなどに収容している地域に、そのまま野宿するなどしている。しかもこれらの人々は、ジェンダーや年齢、家族構成によって分節化され、異なる空間に収容されてもいる。ホームレスの多い地域はそれぞれに、こうした位置を社会から割り振られているのだ。
 第2に、研究を新自由主義と自己責任論に対する根底的な批判へと結びつけていること。自己責任論を浸透させたのは、個人に内在する要因によって自己と他者のすべてを説明しようとする心理学主義であり、さらに以前から民衆のホンネとしてあった「自業自得」という論理であると喝破し、これに社会の構築を志向する「社会系」を対置する最終章は、そのやや込み入った構成を差し引いても、重く受け止めるに値する。
 著者はもともと、地味な学術論文よりは単行本の著者に向いていたはずだと思う。本書によって、15年前と同じテーマで再デビューを果たしたとでもいえるだろうか。時代が、この再デビューを著者に強制したのだろう。今後の活躍に期待したい。

貧者の領域---誰が排除されているのか (河出ブックス)

貧者の領域---誰が排除されているのか (河出ブックス)

隠蔽された外部―都市下層のエスノグラフィー

隠蔽された外部―都市下層のエスノグラフィー