千田有紀『女性学/男性学』

 遠い昔の話だが、静岡大学教養部にいた頃、「女性学」の授業を担当していたことがある。女性学と題する授業科目が大学に置かれるようになって、さほどたっていない頃だったと思う。内容としては、ジェンダーの概念から始まって、家族、教育、労働、社会参加など、現代社会論の各分野を横断して女性の現状について論じるというもので、当時の女性学では普通のスタイルだったと思う。
 ところがある時期から、女性学はだんだん難しくなり、私のような素人には手を出しにくいものになってしまった。セックスとジェンダーの区別も単純には論じられなくなり、セクシュアリティの問題を避けて通れなくなった。最近の授業では、女性労働や女性の階級所属と貧困について言及することくらいはあるけれど、あくまでも数あるテーマの一つとしてしか扱わない。
 そんな難しくなってしまった女性学についての、わかりやすい入門書が、これ。女性学の入門書とはいっても、私が授業していた頃とはまったく別物で、思想的・方法的問題、というより基本のプロブレマティークを論じたもの。関心のある人にとっては必読書である。ちなみに私にとっては、やっぱり最近の女性学は難しいということを、わかりやすく理解させてくれた本だった。

女性学/男性学 (ヒューマニティーズ)

女性学/男性学 (ヒューマニティーズ)