見田宗介『まなざしの地獄』

 見田宗介の「まなざしの地獄」は、私の世代の社会学者には忘れることのできない名論考である。連続射殺事件の永山則夫ライフヒストリーに題材をとり、現代日本における階級の意味について論じたもので、永山則夫に関する文献の中でもトップにあげておきたい。最初は雑誌『展望』に掲載され、のちに『現代社会の社会意識』(弘文堂・1979年)に収められたが、絶版。そのまま入手困難な状態になっていた。それが今回、河出書房新社から単行本として復活した。 これ一本では本にならないので、「新しい望郷の歌」と、見田自身によるあとがき、そして大澤真幸の解説を収めている。
 喜ばしい限りなのだが、失望した個所が一点だけある。原著には、「このようにそののりこえのあらゆる試みにつきまとい、とりもちのようにその存在のうちにつれもどす不可視の鉄条網として、階級・階層の構造は実存している」という名文句があり、これまで私は何度となく講義で学生に紹介し、引用もしてきた。ところが今回の版では、この「実存」という語が「実在」になっている。不可視の鉄条網は、「実在」ではなく「実存」するものなのではないだろうか。
 これから読む人は、この個所に注意すること。社会学を志す人は、必ず読まなければならない論文である。
[付記]出版社に問い合わせたところ、やはり校正ミスとのことだった。

まなざしの地獄

まなざしの地獄