布施哲也『官製ワーキングプア』

 公務員といえば、「身分が安定していて給料が高い」と脊髄反射的に考える人は多い。これは、事実に反する。公務員の給与は、民間企業の平均値をもとに人事院勧告で決められているのだから、高いはずがない。
 高い部分があるとしたら、それは運転手や作業員などのブルーカラー職である。公務員の給与体系では、ホワイトカラーとブルーカラーの差が小さく設定されている。これに対して民間では、正規雇用のホワイトカラーが特権的な地位を享受する一方で、ブルーカラーはどんどん切り捨てられている。だから民間との比較では、公務員のブルーカラーの給与は高くみえる。しかし、だからといってブルーカラー公務員の給与を民間並みに引き下げろというのはどうか。私には、これは職業差別的発想と思える。
 公務員の近年の大きな変化は、非正規雇用が増加していることである。総務省の控えめな調査結果でも、地方自治体で45万5000人、国では14万5000人で、計60万人。しかし、これには20時間未満の短時間労働者が含まれていない。本書の著者は、実際の数を100万人以上と推定している。その大部分は、もちろんワーキングプアである。
 著者は清瀬市議会議員だが、ジャーナリスト的感覚があり、数多くの非正規公務員に会って話を聞き、その実態をあぶり出そうとする。日本史マニアでもあるらしく、ときおり江戸時代の下級武士との比較もでてくるが、これがなかなかおもしろい。米国の「年次改革要望書」が、ワーキングプア増加の背景にあるという構造も、しっかり押さえている。
 公務員バッシングはとどまるところを知らない。格差や貧困への人々の怒りは、これをもたらした政府や財界に対してではなく、しばしば公務員と、公的扶助を受ける生活保護世帯に向けられる。そして政府と保守系マスコミが、これをあおっている。選挙に向けて、自民党政治家たちはさらに、労働組合批判を強化するに違いない。公務員の多くが、実は下層化しつつあって、むしろ格差と貧困に苦しむ人々と、生活実態の上でも一体化しつつあるという現実を、本書は教えてくれる。

官製ワーキングプア―自治体の非正規雇用と民間委託

官製ワーキングプア―自治体の非正規雇用と民間委託