橋本健二『新しい階級社会新しい階級闘争』

私の2年前の著書だが、ネット上に素晴らしいレビューが出た。大阪産業労働資料館エル・ライブラリーのサイトである。山口さん、ありがとうございます。 タイトルには「階級社会」「階級闘争」という言葉がならんでいますが、現代日本の状況を、伝統的な階級…

秋本治「東京深川三代目」

先日読んだ『昭和マンガ家伝説』で、平岡正明が激賞していたのがこれ。近所の古本屋でたまたま売っていたので、買ってみた。 たしかにこれは、いい作品である。深川にある立花工務店の孫娘・静は、子どものころから祖父の仕事現場に入り浸り、将来は大工にな…

東京新聞編集局「東京歌物語」

これは、連載時から注目していた好企画。ふんだんにカラー写真が入った単行本になったのがうれしい。 たとえば、坂本九の「見上げてごらん空の星を」取り上げて、これを定時制高校で学ぶ・学んだ若者たちへの応援歌と位置づける。そして井沢八郎の「あヽ上野…

「幻の光」(是枝裕和監督・1995年)

木下昌明という映画評論家の本を、立て続けに四冊読んだ。これについては、日を改めて書くことにするが、そこで興味をひかれて見たのが、この映画である。 ストーリーは、どうということはない。主人公のゆみ子(江角マキコ)は、夫が突然の自殺を遂げた5年後…

平岡正明『昭和マンガ家伝説』

平岡正明が亡くなった。私がこの名前を知ったのは、一九七二年の『あらゆる犯罪は革命的である』によってだが、犯罪と反体制を無関係な、それどころか対極のものと考える潔癖左翼の発想から解放されるのに、この本のタイトルは(ほとんどタイトルと目次だけし…

青木正児『酒の肴・抱樽酒話』

原著は1948年と1950年で、これが一冊にまとめられたのが1962年、改版を経て文庫化されたのが、本書である。 文学や歴史を専門とする人には、ときどき驚くほど博識な人を見かけるが、この著者などはその最たるものだろう。中国古典文学を専門としていたようだ…

伊藤元重『リーディングス 格差を考える』

伊藤元重が編集したリーディングスというから、かなり専門的な論文を集めたものかと思ったら、大部分が『エコノミスト』『日本経済新聞』『論座』など、一般向けのメディアに書かれたもの。入門書ではないから、それぞれの著者の主張が前面には出るものの、…

岩田正美『社会的排除』

岩田正美は、貧困研究に関する第一人者であるとともに、ジャーナリズムに通じる抜群の現実感覚があり、しかも文章がうまいという、私が尊敬する研究者の一人である。本書はその最新作で、研究の最新成果を社会的排除論と結びつけた意欲作。 書き出しがいい。…

斉藤貴男『強いられる死』

自殺の名所とされる福井県の東尋坊に、自殺を水際で食い止める活動をしているNPOがある。2008年暮れからの3ヶ月間で、15人を自殺の淵から救い出した。そのうち7人までが、派遣切りの犠牲者だった。そして他の8人は、多重債務者、勤め先でパワハラにあった人…

ショスタコーヴィチの室内楽2

現代音楽を聞き始めた頃、愛読した本に矢野暢の『20世紀の音楽──意味空間の政治学』(音楽之友社・1985年・品切)がある。著者はアジア政治研究の権威で、スウェーデン王立科学アカデミー会員としてノーベル賞の選考にも関わったとされるが、1993年にセクシュ…

ショスタコーヴィチの室内楽

ショスタコーヴィチといえば、多少クラシック音楽に関心があっても、交響曲しか聞いたことがないという人が多いだろう。しかし彼の室内楽には傑作が多く、ときどき無性に聞きたくなる。とくに好きなのは、15曲ある弦楽四重奏曲のいくつかと、2曲あるピアノ3…

直井優・藤田英典編『講座社会学13 階層』

いままで読んでなかったのかと言われそうだが、ようやく読了。大ベテランから中堅ホープまでを揃えた陣容だが、これは果たして『講座社会学』なのかというと疑問。総論的な章があと一つか二つ必要だったのではないかという気もするが、論文集と考えればまあ…

白波瀬佐和子『日本の不平等を考える』

著者は、少子高齢化・家族の多様化というトレンドに注目しながら、格差と不平等について論じてきた社会学者。本書はこれまでの研究の集大成ともいうべきものだろう。基本のデータは、日本については国民生活基礎調査、台湾および欧米諸国についてはルクセン…

岩井浩・福島利夫・菊地進・藤江昌嗣編著『格差社会の統計分析』

統計学という言葉には、大別して2つの意味がある。1つは、多数派の研究者が理解する意味での統計学で、理論統計学、とくに推測統計学のこと。つまり、集められたデータから各種の統計量を算出し、ここから母集団の性質を推測するための数学的方法である。も…

好井裕明『ゴジラ・モスラ・原水爆』

著者はエスノメソドロジー研究で知られる社会学者だが、映画にも関心をもっているようで、論文がいくつかある。本書は単行本として刊行されたものとしては、唯一の映画論である。 私もほぼ同世代だから、子どものころに怪獣映画に興奮した経験は共有している…

廣澤榮『私の昭和映画史』

先日読んだ『日本映画の時代』が面白かったので、こちらも読んでみた。タイトルからみると、自身の体験をまじえながら、昭和映画史をある程度包括的に論じたもののようにみえるが、実際には半分以上が映画界に身を投じる前の生い立ちの記で、後半部分も、ほ…

岩崎稔・上野千鶴子・北田暁大・小森陽一・成田龍一編著『戦後日本スタディーズ2 「60・70」年代』

大学院に入ったばかりの頃、「日本はこれでいいのか市民連合(日市連)」という団体で活動していたことがある。ベ平連に憧れていたので、その流れをくむ市民運動に参加したいと前から思っていたからだが、失望することが多かった。何より問題なのは、小田実を…

溝口敦『歌舞伎町・ヤバさの真相』

新宿にはときどき行くが、歌舞伎町に足を踏み入れたことがない人は多いはずだ。何といっても、「危ない街」イメージでは都内で、いや日本でもナンバーワンである。かくいう私も、ひととおり散策したことはあるけれど、たまにゴールデン街や大通りに近い居酒…

半藤一利『昭和史』

これは大ベストセラーだが、あまりに大部で場所をとるのでこれまで買わずにいた。ようやく文庫化されたので、読んでみることに。終戦までと終戦後の二巻構成である。 上巻は、政治+軍事史といっていい。著者は戦記物の著作が多いが、そのエッセンスが詰め込…

鎌田慧『いま、逆攻のとき』

派遣労働、外国人労働、貧困などに関して、この著者が最近書いた文章を再構成してまとめられた前半部と、川田文子、湯浅誠との対談を収めた後半部からなる。この人の文章は、ふだんから『週刊金曜日』で読んでいるので、内容的には見慣れたものが多いが、い…

小林信彦『映画を夢みて』

小林信彦の、主に若い頃に書いた映画評論集で、初出は一九九一年。これは九八年に出た文庫版である。小林信彦は一九三二年生まれだから、かろうじて戦前・戦中を経験した世代であり、戦争直後から五〇年代の映画を、リアルタイムな経験にもとづいて語ること…

吉川徹『学歴分断社会』

出版間もなく著者から送ってもらっていたのだが、ようやく読了。著者の主張は、ある意味では単純明快で、「格差社会の"主成分"は学歴だ」というもの。つまり、日本では職業に関連して定義される階級・階層よりも、大卒と高卒に二分された学歴の方が重要で、…

原清治・山内乾史『「使い捨てられる若者たち」は格差社会の象徴か』

ある日の授業のあと、学生が私のところへやってきた。 「先生って、すごいんですね。」 「は?」(なんだ、いまごろ分かったのか) 「この本で、先生のこと、すごくほめてありましたよ。」 と、学生が差し出したのが、この本。二人の著者は教育社会学が専門と…

川本三郎『君美わしく』

川本三郎が、戦後日本映画の黄金期を作った一七人の名女優と対談した記録で、「戦後日本映画女優讃」の副題がつく。通勤途中の電車の中で読むのにちょうどいい、半月もすれば読み終わるだろう……と読み始めたのだが、あまりに面白くて一気に読んでしまった。 …

廣澤榮『日本映画の時代』

著者は、黒澤明、成瀬巳喜男、豊田四郎などの助監督を務めたあと、シナリオライターとして活躍した人物。シナリオライターとしては「サンダカン八番娼館 望郷」などを手がけているが、さほど多くの作品があるわけではない。しかし戦後映画史の生き証人として…

塩見鮮一郎『貧民の帝都』

著者は、被差別民の歴史に関する著作で知られ、なかでも江戸時代の非人についての著作が多いが、本書の対象は近代で、幕末から敗戦後までを扱っている。 明治維新によって大名と家臣たちは地方に帰ったが、これによって江戸と地方の性格は大きく変わる。地方…

さいとうたかを『ゴルゴ13 真のベルリン市民』

このマンガ、以前は全巻持っていたのだが、本棚が狭くなったので処分し、それからあまり読んでいない。何となくタイトルにひかれて、久しぶりに買ってみた。一五二巻目とのことである。一〇〇巻を突破したのは、つい最近のような気がしていたのだが。 表題作…

川本三郎『今日はお墓参り』

田中絹代、有吉佐和子、成瀬巳喜男、長谷川利行、森雅之、芝木好子など、昭和文化を彩った十八人を取り上げ、その墓を訪問することを縦糸に、それぞれの短い評伝を一冊の書にまとめ上げるという、何とも心憎い企画である。 川本三郎の著書を読むときにはいつ…

鈴木琢磨『今夜も赤ちょうちん』

毎日新聞の名物記者、鈴木琢磨の名コラム「今夜も赤ちょうちん」が、ついに単行本になった。版元は、なぜか毎日新聞社ではなく、あまり聞いたことのない出版社。毎日新聞夕刊での連載は約一五〇回だったが、精選して七八本、これに「呑んべえ列伝」と題して…

不破哲三『マルクスは生きている』

少し話題になっている本である。読んでみると、「共産党も少し変わったな」と思わせる部分と、「やっぱり共産党は変わらないな」という部分がある。 変わったなと思うのは、まず恐慌に関する過少消費説と過剰生産説を組み合わせようとしているところ。しかも…