東京新聞編集局「東京歌物語」

 これは、連載時から注目していた好企画。ふんだんにカラー写真が入った単行本になったのがうれしい。
 たとえば、坂本九の「見上げてごらん空の星を」取り上げて、これを定時制高校で学ぶ・学んだ若者たちへの応援歌と位置づける。そして井沢八郎の「あヽ上野駅」では、世田谷・桜新町集団就職者受け入れが始まった経緯を描き、集団就職の草分けとなった商店主のもとで働き、後に自分の店を持った元・少年の回想を紹介する。
 今ではほとんど眼にしなくなったが、流しの演歌師からデビューした歌手たちは、盛り場の片隅の人間模様を歌う。北千住出身の渥美次郎の「夢追い酒」。父親も演歌師で、当時は北千住だけで100人もの演歌師がいたという。渥美は16歳でこの世界に入り、大卒初任給が2-3万円の時代に、一晩5、6000円を稼いでいた。大木英夫と津山洋子の「新宿そだち」。デビュー前、大木は思い出横町や歌舞伎町で流しの演歌師をしていた。ヒットしたのはフーテン族が新宿にたむろしていた頃で、夜10時になると、未成年者の帰宅を促す鐘の音が鳴り響いたという。
 全51曲。すべて歌詞付き。知らない歌が意外に多いのが悔しい。名曲集のようなものでも探してみようか。

東京歌物語

東京歌物語