溝口敦『歌舞伎町・ヤバさの真相』

 新宿にはときどき行くが、歌舞伎町に足を踏み入れたことがない人は多いはずだ。何といっても、「危ない街」イメージでは都内で、いや日本でもナンバーワンである。かくいう私も、ひととおり散策したことはあるけれど、たまにゴールデン街や大通りに近い居酒屋へ行く程度。とても全容は把握できない。
 本書は新宿の歴史から説き起こし、戦後のヤミ市から最近の変化まで、風俗と犯罪を中心に歌舞伎町の全容を描く。新宿に、三ノ輪の浄閑寺と同じような「投げ込み寺」があったとは知らなかった。新宿二丁目の成覚寺で、二二〇〇人が葬られているという。戦後の新宿の出発点を作った人物だけに当然なのだが、尾津喜之助についての記述が多いのはうれしい。尾津のような正統派テキ屋とは一緒にできないが、歌舞伎町には最盛期で二〇〇もの組事務所があり、現在も一〇〇ヶ所程度あるという。警察庁暴力団組員の生活実態について調査しているとは知らなかった。これによると、「女依存型」(つまりヒモ)が二八・二%を占め、その平均年収は一〇〇〇万円だという。ずいぶん女に稼がせているわけである。ちなみに他の類型は、下層労働者型二〇・五%、親依存型八・八%、組依存型二二・四%、組定着型一四・六%とのこと。
 最後の部分は、外国人の犯罪についてやたらと詳しく書かれていて、中国人や朝鮮人に対する偏見を助長しないかと心配にもなるのだが、著者自身は歌舞伎町が「悪所」であるがゆえに、日本人にとっては匿名性が保たれる空間であり、また外国人を受容する町として発展してきたということを強調している。犯罪は少ない方がいいが、こんな空間は大都市に一つや二つあった方がいい。

歌舞伎町・ヤバさの真相 (文春新書)

歌舞伎町・ヤバさの真相 (文春新書)