半藤一利『昭和史』
これは大ベストセラーだが、あまりに大部で場所をとるのでこれまで買わずにいた。ようやく文庫化されたので、読んでみることに。終戦までと終戦後の二巻構成である。
上巻は、政治+軍事史といっていい。著者は戦記物の著作が多いが、そのエッセンスが詰め込まれている。満州侵略の開始から敗戦までを概観する、優れた教科書である。
下巻は、マッカーサーと昭和天皇の関係を軸に、講和会議までを描いた前半、そして巻末におかれた補章が面白い。著者は、憲法の規定にもかかわらず、天皇がマッカーサーとの会談を通じていろいろな政治的影響を与えたのではないかという。たとえば1950年4月、天皇は日本共産党の活動への懸念をマッカーサーに伝えるのだが、その直後に共産党は、幹部が公職追放され、地下活動と分裂という混乱期を迎えることになる。もちろん、基本的な流れそのものは別のところで用意されていたはずだが、一定の役割を果たしたことは事実なのだろう。
一九六〇年代以降の部分は、私の世代でもリアルタイムで経験したことになるので、さほど目新しい記述はない。ただ、著者の酒遍歴についての、次の一文はなかなか面白い証言である。所得倍増は、酒消費をも変えたのである。私の「居酒屋考現学」を歴史的に敷衍するためには、この種の証言が重要になる。
私も、かつては焼酎しか飲めなかったのが、やがてトリスになり、オーシャンになり、サントリーの角になって……そういえば隅田川でボート選手だった昭和二十六、二十七年頃は、先輩が吾妻橋あたりでビールを飲ませてくれるというと感涙にむせぶくらいうれしかったのが、この頃になるとビールなんてがぶがぶ飲めるようになっていました。
- 作者: 半藤一利
- 出版社/メーカー: 平凡社
- 発売日: 2009/06/10
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