岩崎稔・上野千鶴子・北田暁大・小森陽一・成田龍一編著『戦後日本スタディーズ2 「60・70」年代』

 大学院に入ったばかりの頃、「日本はこれでいいのか市民連合(日市連)」という団体で活動していたことがある。ベ平連に憧れていたので、その流れをくむ市民運動に参加したいと前から思っていたからだが、失望することが多かった。何より問題なのは、小田実をはじめとする著名人・知識人(自称を含む)が「世話人会」という組織を作っていて、そこで基本方針を決め、一般市民や学生たちの作る「事務局」、そして一般参加者は、その下働きまたは単なる集会・デモ担当という分業がはっきりしていたこと。これは、市民運動にあるまじき組織構造だが、それだけでは済まない。本書で田中美津が言っているが、「トップと下部を作らない」というのが、ベ平連の特徴だったはずで、これを真っ向から否定しているからである。しかも世話人会で「事務局は、われわれの手足でいいんだ」という発言があったなどと漏れ聞いて、市民や若者たちは不信感を強めていた。その上、世話人の何人かは、たまに事務局会に出て来ると高圧的に命令したり、市民の発言に意味のない反駁を加えたりする。
 まもなく日市連は解散したが、当然のなりゆきだろう。ただし、尊敬できる世話人がいなかったわけではない。それが、吉川勇一ベ平連の事務局長で、ずっと実務を支えてきた人物である。日市連でも、彼だけは毎回事務局会議に出席し、丁寧に市民や若手にアドバイスしていた。もっとも、世話人会のあり方が問題になると、そのたびに世話人たちを擁護していたが。
 本書でいちばん読み応えがあるのは、吉川勇一田中美津へのインタビューである。もっとも、インタビュアーには問題なしとしない。吉川を担当した小熊英一は、徹底した下準備をしていることはわかるが、それだけにどうでもいい細部に入りこみすぎる嫌いがある。田中を担当した上野千鶴子は、何とか田中をやりこめてやろうという意識が強く、反論されても頑なに自説に固執したりはぐらかしたりする。二人とも、基本的に学者としてインタビューしているのであって、運動への共感というものが希薄である。しかし、70年前後の運動の中心にいた二人の証言は内容豊富で、記録としての価値が大きいのみならず、ともかく面白い。
 他の章だが、どうもテーマが些末に偏りすぎる。ほとんどのスペースが、広い意味での社会運動に集中しており、しかもそれぞれピンポイントなテーマを扱っていて、全共闘運動そのものを扱った章すらない。人々の日常生活や、社会意識の変化全体を扱っているのは、上野千鶴子のいかにも教科書的な一章だけ。編者たち自身が、60-70年代の全体像を浮かび上がらせようという方向を、最初から放棄していたようだ。一つの論文としてみたときに面白いものはいくつかあるが、一冊の本としては看板倒れというほかない。しかし、二つのインタビューの価値だけで、買う意味はあると思う。

戦後日本スタディーズ2

戦後日本スタディーズ2