社会一般

水木しげる(原作・柳田國男)『水木しげるの遠野物語』

『遠野物語』は、民俗学の確立者としての柳田國男の名声、そして『共同幻想論』における吉本隆明の晦渋な読解の影響で、気軽に読むことが許されないようなイメージがないではない。ところが水木しげるは、これを完全に消化して、独自の世界にまとめ上げた。…

島田裕巳『教養としての日本宗教事件史』

私の『「格差」の戦後史」と同じく、河出ブックス第一弾の一冊である。この著者、そしてタイトルからは、創価学会、統一協会、オウム、幸福の科学など、新興宗教・新宗教の引き起こした事件の数々を網羅的に論じた本を想像する人も多いだろう。しかし、内容…

岩崎稔・上野千鶴子・北田暁大・小森陽一・成田龍一編著『戦後日本スタディーズ1 「40・50」年代』

『戦後日本スタディーズ』も、これで完結。今回は年代が古いこともあり、歴史書という印象がぐっと強くなった。座談会とインタビュー、11本の論文から構成されている。著者たちのスタンスを大別すれば、次の三つになるだろうか。 第1は、戦中から戦後にかけ…

吉見俊哉『ポスト戦後社会』

岩波新書の『シリーズ日本近現代史』全9巻の最終巻にあたる一冊。ここでポスト戦後社会というのは、著者によると、高度成長の終わった1970年代後半以降の社会のことである。70年代初めまでは、アジア規模でみるならいまだ「戦時」であり、日本も総力戦体制の…

猪野健治『やくざ親分伝』

著者は、やくざに関する取材と研究では第一人者といっていいフリー・ジャーナリスト。多数の著作があるが、本書は日本の戦後史を彩った何人かの親分たちに焦点を当て、その生涯と人間像を描き出したもの。とくに、新橋の松田義一、新宿の小津喜之助、浅草の…

森永卓郎(監修)『物価の文化史事典』

最近、戦後史について書いているので、物の値段や賃金水準について調べなければならないことが多い。そのための定番は、これまで週刊朝日編集の『戦後値段史年表』『明治大正昭和 値段史年表』だったのだが、ここに新たな定番が登場した。 値段も高いが500頁…

朝日新聞社編『カイシャ大国』

1994年から95年にかけて、朝日新聞は「戦後50年」という連載記事を掲載し、95年に全5巻の文庫本として出版したが、その3巻目にあたるのが、この本。戦時下の家族手当の導入から始まり、電産型賃金に至る日本的な賃金体系の成立から始まって、「会社人間」の…

矢野恒太記念会編『数字でみる日本の100年』

「日本国勢図会長期統計版」というサブタイトルがついている。題名以上に内容は豊富で、もっとも古いものでは1872年(明治5年)にまでさかのぼり、2005年までのデータを収録している。 この種の統計集は、「広く浅く」なので専門的な研究には役に立たない……と…

赤塚行雄『戦後欲望史(全3巻)』

大学紛争の時代、何人かの教員が日本大学を去っているが、この著者もその一人で、その後は評論家として活躍した。まだご存命のはずだが、最近の活動は知らない。 本書は、私の理解では『青少年非行・犯罪史資料』(全3巻)とともに、著者の最大の仕事を構成す…

田村秀『B級グルメが地方を救う』

誰か、こんな本を書かないかと思っていた。書いたのは、田村秀さん。なるほど、地方行政のスペシャリストだし、全国を駆け回っているらしいから、適任である。 それにしても、ずいぶん回っていらっしゃる。富士宮の焼きそば、宇都宮の餃子、東松山のやきとり…

鈴木邦男・川本三郎『本と映画と「70年」を語ろう』

これは、異色の対談。鈴木邦男は新右翼のイデオローグだが、「赤衛軍事件」で逮捕された川本に、ずっとシンパシーを感じ続けていたという。右翼とはいっても、偏狭なナショナリズムでも体制派でもなく、思想的にはともかく政治的にはむしろ左翼に接近する場…

小関智弘『春は鉄までが匂った』

これは2回目の文庫化で、初出は1979年。著者は長年にわたって町工場の旋盤工と作家の二足のわらじを履き続けた人物。町工場の日常と金属加工の現場、そして職人たちの克明な描写は、この人にしかできない。 著者は、「社会に対しても自分に対しても、辞める…

『外食産業統計資料集2008年版』

図書館にあればいいのだが、ここまでマイナーな統計になると手近な図書館にはない。しかたなく、研究費で買った。 さまざまな官庁統計、シンクタンクや民間企業などが行った調査結果から、外食産業に関する数値を集めたもので、B5版627頁のボリューム。いま…