岩崎稔・上野千鶴子・北田暁大・小森陽一・成田龍一編著『戦後日本スタディーズ1 「40・50」年代』

 『戦後日本スタディーズ』も、これで完結。今回は年代が古いこともあり、歴史書という印象がぐっと強くなった。座談会とインタビュー、11本の論文から構成されている。著者たちのスタンスを大別すれば、次の三つになるだろうか。
 第1は、戦中から戦後にかけての自分の経験を背景に、この時代とその後を当事者的実感をもって論じたもの。早乙女勝元の「抑圧された東京大空襲の記憶」がその代表で、東京大空襲を知らない若者たちに、ぜひ読ませたい。加納美紀代の「〈復員兵〉と〈未亡人〉のいる風景」は、戦争を刻印されたこの2種類の人々を中心に戦後を描いて、静かな感銘をもたらす。遺族年金目当てに未亡人を家から追い出し再婚を迫る動きがあったことを指摘し、小津安二郎の「東京物語」で、笠智衆原節子に再婚を勧めるエピソードを、遺族年金横取りとも解釈できるとした部分には、目を開かされた。
 第2は、戦後生まれ世代の研究者が、一次資料の検討から新しい事実を掘り起こして論じたもの。鳥羽耕史の「サークル誌・記録・アヴァンギャルド」、成田龍一の「『平凡』とその時代」がこれにあたり、とくに前者は知られざる文化運動の姿を描いて興味が尽きない。
 第3は、歴史をあたかも、時期区分と論理的なつながりから配列されるべき知的パズルででもあるかのように、あれこれ論じてみせるもの。冒頭の座談会をはじめとして、このような傾向があちこちに顔を出す。本書のもっとも不毛な部分である。
 400ページで2400円。とくに社会運動と思想・文化に重点を置いた、充実した年表もついているから、3巻揃えておく意味はあると思う。政治史でも文化史でもなく、戦後史を総体として捉えようというスタンスは、たとえ個々の論文がその課題に十分答えていないとしても、大いに意義あるものである。