赤塚行雄『戦後欲望史(全3巻)』

 大学紛争の時代、何人かの教員が日本大学を去っているが、この著者もその一人で、その後は評論家として活躍した。まだご存命のはずだが、最近の活動は知らない。
 本書は、私の理解では『青少年非行・犯罪史資料』(全3巻)とともに、著者の最大の仕事を構成するもので、戦後史を語る上では欠かせない名著だと思う。ともかく、それぞれの時代を象徴するようなありとあらゆる犯罪を網羅したうえで、文化・風俗上のできごとも織り込みながら、庶民レベルの精神史を大河のような流れとして描いていく構想力には感服する。
 著者は、1970年代末からはじまる、品川の「青酸コーラ殺人事件」、新宿の「バス放火事件」、深川の「通り魔殺人事件」など、一連の無差別殺人事件を、「世間の連中は、みんなうまくやっているのに、自分だけが取り残されてしまっている」という疎外感から生まれた犯罪と特徴づけ、永山則夫の連続射殺事件をその先駆けに位置づける。
 この指摘は重要である。というのは、取り残されたと感じる人が増えれば、凶悪犯罪が増えるということになるからである。秋葉原の通り魔殺人事件などは、その典型だろう。しかも、取り残された人々がさらに増えてひとつの「階級」を形成するようになれば、それは階級テロとなる。
 加害者・被害者などの実名が頻出するなど、プライバシー問題への配慮が少ないことを考えると、このままの形での復刊は難しいかもしれないが、現代でも広く読まれていい本である。古書はかなり出回っている。

戦後欲望史 (転換の七、八〇年代篇) (講談社文庫)

戦後欲望史 (転換の七、八〇年代篇) (講談社文庫)