間庭充幸『若者犯罪の社会文化史』

 著者は犯罪社会学者だが、いろいろな犯罪事例を取上げ、その時代の社会状況や時代精神と関わらせながら論じるという、やや評論めいた著作を書くのを得意とした。「アプレ人間」「管理社会」など、やや時代がかった用語が出てくるのは、この世代の社会学者してはしかたのないところだが、若者犯罪に対する視点は、今でも大いに参考になる。
 私は秋葉原の通り魔事件など、若い無業者・失業者や非正規労働者による凶悪犯罪には、格差の拡大や雇用不安という明確な社会的背景があると考えているが、こうした事件自体はけっして新しいものではなく、1980年代から1990年代にはすでに頻出していた。そのかなりの部分が青少年によるもので、著者はこれを「管理社会に復讐する青少年の自爆的犯罪」と呼び、社会が実体性を薄めたために、攻撃衝動が自殺あるいは無差別殺人につながるのだとしている。 1983年の「犯罪白書」には、82年1年間に通り魔事件が182件発生しており、そのうち殺人が13件との記述があるとのこと。確認すると、これはネット上でも公開されていた。
 警視庁は通り魔事件を「人の自由に通行できる場所において、確たる動機がなく、通りすがりに不特定の者に対し、凶器を使用するなどして殺傷等の危害(殺人、傷害、暴行及びいわゆる晴れ着魔などの器物損壊等)を加える事件」と定義しているとのこと。しかし、近年ではこのような集計がみあたらない。そもそも攻撃対象が拡散しているのだから、確たる動機がないと言い切ることも難しい。
 本書は先駆的な著作だが、現代の通り魔事件を対象に加え、「曖昧な動機」「曖昧な攻撃対象」を視野に入れて再考する必要がありそうだ。

若者犯罪の社会文化史―犯罪が映し出す時代の病像 (有斐閣選書)

若者犯罪の社会文化史―犯罪が映し出す時代の病像 (有斐閣選書)