蜂巣敦・山本真人『殺人現場を歩く』

 この本の分類は難しいが、都市論に入れておこう。東京および周辺で起こった殺人事件を取り上げて、その現場を淡々と描いていく。
 犯罪そのものについての記述は、多くの場合、最低限に抑えられていて、この犯罪が起こった現場や、周辺の街の現況を描くことに主眼が置かれている。つまり、犯罪論の形を借りた都市論といった方がいい。山本真人の写真も、乾いたトーンで人間の存在を感じさせない。東京周辺の至る所に、いつ凶悪犯罪が起こってもおかしくない虚無的な空間が広がっているという現状認識が、著者と写真家の姿勢のベースにあるようだ。
 ただし、犯罪そのものに重点を置きすぎて、普通の犯罪論になってしまったケースもあり、やや一貫性を欠く。その意味で、成功しているのは綾瀬の女子高生コンクリート詰め殺人や、柴又女子大生殺人放火事件など。綾瀬は、東京外周部の典型だろう。柴又も東京の最外周部で、この一文は、「寅さん」のイメージで柴又を美化している人におすすめしたい。

殺人現場を歩く (ちくま文庫)

殺人現場を歩く (ちくま文庫)