佐藤忠男『日本映画史・全4巻』
この世には、乗り越えることの不可能な著作というものがしばしば存在するが、本書などその典型というべきだろう。
合計すると、約1600頁。1巻から3巻までが年代別の通史で、19世紀の単純な写し絵から説き起こして、2005年までをカバーしている。とくに戦時下の植民地・占領地における映画工作についての記述など、よくこんな映画まで見たり調べたりすることができると感心する。一般向けの映画だけでなく、教育映画やドキュメンタリーなども丹念に追っており、たとえ長年にわたって毎日のように映画館に通っていたとしても、これだけ映画を見尽くすことは難しいだろう。第4巻は、テーマ別・撮影地別と、別の視点から書かれたいくつかの節と、年表・索引である。
現代の部分は、新しい視点からさらに優れたものを書く著者が現れるかもしれないし、テーマ別・撮影地別の部分は、たとえば川本三郎など、これ以上のものを書くかもしれないが、全体としてみれば、これ以上の通史があらわれるとは考えにくい。しかも、日本と東アジアの関係、差別問題、階級間格差などにもそのつど触れられていて、著者の高い見識を感じさせる。全部揃えると16800円にもなるが、映画好きならその価値はある。
- 作者: 佐藤忠男
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