喜安朗『パリの聖月曜日』

 パリの外周部には環状の自動車道が走っていて、これに沿って「ポルト・ド・○○」という地名が連なっている。ポルトというのは城門のことで、ここにかつての城壁都市の外周があったということがわかる。現在でもパリ市街は、ほぼこのとおりの範囲にある。城壁の内側では、市民を対象とする税金がかかるので、この城壁のあちこちにある門の外側に、市場が立ったという。
 そして本書によると、やはりこの城壁を取り巻いて、無数の居酒屋が立っていた。なにしろ、門の内側に入ると高額の酒税がかかり、この税は従量税のため、大衆向けのワインでは税金部分が八割にもなった。だから門の外側に、居酒屋が建ち並ぶようになったのである。これが「関の酒場」で、週末になると労働者たちが集まってきた。しかし労働者たちの多くは、日曜日は家族と一緒に過ごし、月曜日に仕事を休んで居酒屋に入り、仲間たちといっしょに時を過ごすという生活をするものも多かった。これが表題にある「聖月曜日」である。そして居酒屋で形成された労働者たちのつながりが、初期の労働運動の母胎となる。
 そんな19世紀の労働者たちを活写した名著。初版は1982年で、今年になって現代文庫に収められた。

パリの聖月曜日―19世紀都市騒乱の舞台裏 (岩波現代文庫)

パリの聖月曜日―19世紀都市騒乱の舞台裏 (岩波現代文庫)