西井一夫・平嶋彰彦『「昭和二十年」東京地図』

 旅先で何か東京論の本を一冊、じっくり読みなおそうと考えたとき、すぐに思いついたのはこの本だった。
 佐多稲子永井荷風高見順伊藤整など数多くの作家たちの日記や作品を縦糸に、国家の政策や在野の社会運動を絡めながら、戦中から戦後にかけての東京の社会を鮮やかに描き出している。著者が第一によって立つのは、都市の細民や被差別者たちの視点だが、ついで永井荷風のような、戦時の批判的傍観者たちにも共感を示す。情報量はきわめて多く、著者の力量には感服する。ちなみにタイトルの「昭和二十年」に括弧がついているのは、天皇制の記号表示は本意ではないからとのこと。東京の都市史を論ずるための必読書だろう。
 日本に帰る前にもう一度読み返し、主だったところを頭にしみこませてから、東京の町歩きに出かけたい。文献目録のないのが残念。

新編「昭和二十年」東京地図 (ちくま文庫)

新編「昭和二十年」東京地図 (ちくま文庫)