増田悦佐『東京「進化」論』
東京のさまざまな地域を取り上げて、その成り立ちや現在を語るという、この手の出版物はかなりの数に上る。しかし本書は、2つの点でかなりユニークだ。
まず、取り上げられている街の数が多い。普通この手の本では、主要な盛り場と、下町を中心に歴史的・文学的な話題の多い地域を取り上げるのが常道だが、本書では大井町、江古田、成増など、これまでおよそ取り上げられたことがないような街がいくつも出てくる。それというのも、東京が観光地や名所の集積体としてではなく、住む場所としてとらえられているからだろう。次に、元不動産アナリストらしい視点が随所にある。とくに、鉄道網のもつ意味について解説した個所には目を開かされる。たとえば京急線は他線との乗り入れに消極的だったため、沿線地域の低迷を招いたとか、JR蒲田と京急蒲田が鉄道で結ばれればどういう影響があるか、など。
ちなみに、第2章には、私の本が引用されている。
日本の階級社会論の権威、橋本健二はやや教条主義的な本業での議論より趣味の居酒屋呑み歩きで柔軟な観察力を示すことが多い。最近刊の『居酒屋ほろ酔い考現学』(2008年、毎日新聞社)は、呑み歩きの成果がたっぷり詰め込まれた名著だ。
階級社会論で「権威」になれるとは知らなかったが、こういう著者に「教条主義」と呼ばれるのは、褒め言葉の一種と考えておこう。
- 作者: 増田悦佐
- 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
- 発売日: 2009/06/12
- メディア: 新書
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- 作者: 橋本健二
- 出版社/メーカー: 毎日新聞社
- 発売日: 2008/06/28
- メディア: 単行本
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