鹿島茂「平成ジャングル探検」

 前著『居酒屋ほろ酔い考現学』を書いていたとき、新橋駅前のヤミ市を再開発したビルのことを調べていて、鹿島茂が雑誌に書いた記事に行き当たった。博覧強記でもあり、しかもちゃんと取材して当事者の証言もとるという見事なもので、連載の続きも読みたいと思いつつ、失念していた。それが文庫化されていることを知り、読んだのがこの本。
 取材先は、新橋を皮切りに六本木、渋谷、大久保、銀座、浅草、と続く。盛り場を論じつつ、しばしば古い小説やエッセイに言及するのだが、その言及の仕方たるや、日本文学史への深い学識に裏打ちされていることが一目で分かる。時には風俗店にまで足を運び、自分は現役女子大教授だからこれ以上中には入れないと、編集者やスタッフに突撃取材を命じる。歴史資料や古い週刊誌記事の類も、編集者に集めさせたもの。スタッフ付きで記事が書けるとはうらやましい身分だが、かといってスタッフがいれば誰でも書けるような水準のものではない。
 盛り場の歴史に興味のある人は必読の、異色の都市論である。

平成ジャングル探検 (講談社文庫)

平成ジャングル探検 (講談社文庫)