大西みつぐ『下町純情カメラ』

 著者は1952年深川生まれの写真家で、1993年に木村伊兵衛賞を受賞しているとのこと。
 子ども時代の思い出や、下町の日常や近年の変化をつづる文章と、街角の情景を捉えた写真を収めた文庫本。とくに商店には愛着があるようで、所狭しと商品の並ぶ雑貨屋兼煙草屋、駄菓子屋、喫茶店など、いい雰囲気を出している。
 子どものころ家の近所にあった酒場についての一文に「酒場の中は、一種の露天風呂や千人風呂のように思われて、いつかは自分もみんなのようにそこで仲良くドップリ浸かる運命にあるのではないかという予感があった」とあるのがおもしろい。下町の大衆酒場は、たしかに銭湯に似ている。巻末には簡単な下町ガイドもあり、町歩きにも役に立ちそうだ。

下町純情カメラ (エイ文庫)

下町純情カメラ (エイ文庫)