『東京オリンピック』(市川崑監督・1965年)

 オープニングが有名だ。オレンジ色の夕日が大写しにされたあと、画面はクレーンにつり下げられた巨大な鉄球をとらえる。鉄球はゆっくりとコンクリートの建物に激突し、壁が崩れ落ち、ごう音が響き渡る。残されたがれきは、ブルドーザーによって片付けられていく。次にカメラは、東京・銀座の大通りを超望遠レンズでとらえる。遠くの高速道路をトラックが走り、その下はひしめく車の波。路面電車もその中に飲み込まれ、群衆は横断歩道を足早に渡っていく。高度成長期の日本の姿を象徴する、すばらしい映像である。
 試写会をみたオリンピック担当大臣の河野一郎は、「芸術性を強調するあまり、正しく記録されているとは思われない」「別に記録中心の映画をつくりなおすべきだ」と述べ、これにあわてた映画会社は、日本選手の活躍シーンを増やすなど編集しなおす意向を表明した。文部大臣が文部省推薦を取り消すなどの騒ぎとなったが、市川崑監督は再編集を拒否。映画は日本映画史上最大のヒット作となり、国際的にも高く評価され、 1960年代を代表する映画のひとつとなった。
 現在販売されているのは、後に監督が編集しなおしたディレクターズ・カット版で、オリジナルより少し短くなっている。

東京オリンピック [DVD]

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