高田里惠子『学歴・階級・軍隊』

 丸山真男東京帝国大学助教授だった1944年、徴兵されて二等兵になり、上等兵からいじめを受けたという話は有名だ。赤木智弘が「丸山真男をひっぱたきたい」というエッセイで紹介し、戦争になれば自分も丸山真男をひっぱたけるような社会になるだろうという願望を書いたことも、記憶に残る。しかし、戦争は本当に、そのような下克上の流動性をもたらすのかというのが問題だ。
 本書は学徒兵の遺書や手記を中心に、歴史資料をふまえながら、学徒兵たちの世代とその前後の世代たちの戦中・戦後を描くもの。実際に丸山のような境遇を経験したのは(丸山は助教授という点で例外的だが)、戦争末期に在学したごく狭い世代に限られること、全体としてはやはり、軍は下層階級中心の世界だったのことは明らかである。
 丸山のような経験が、知識人と下層階級の接触をもたらし、戦後思想に影響したというのは、小熊英二の『〈民主〉と〈愛国〉』にも出てくるテーマだが、いつか自分でも検証してみたいものである。
 と、自分の関心にひきつけた紹介になってしまったけれど、たいへん面白い本だ。