『松本清張傑作短編コレクション 中』

 宮部みゆき編集の2巻目。テーマは「淋しい女たちの肖像」「不機嫌な男たちの肖像」の2つ。宮部によると、夢が破れ己の居場所を失ったとき、女は不幸になるが、男は不機嫌になるのだとのこと。淋しいと不幸はちょっと違うが、別のところでは「運命に対して受け身であるがゆえの淋しさ」なんて書いていて、2つあわせて考えれば分からなくもない。
 「式場の微笑」は、傑作だと思う。しかも、男性が書いたのである。宮部もいうように、これほど優しく共感を込めて女性を描くことができるというところに、清張の力量が遺憾なく示されている。「共犯者」は、安部公房にも似た不条理の世界。途中でおかしいと気付いても良さそうなものだが。「カルネアデスの舟板」、こういう人間はいまでもいる。「空白の意匠」、圧倒的なリアリティ。どこで起こっていても不思議ではないお話である。
 人間描写が中心の作品が多いが、その背景に、戦後日本の世相、そして論壇・学会の体質、大手広告代理店の権力が、ちゃんと描かれている。やはり清張は、社会を描く作家だったのである。